2021.03.03
遺産相続で確定申告は必要?相続後の確定申告のポイントについて
家族や親族が亡くなって遺産を相続した時は、相続税や所得税などの税金がかかることがあります。遺産相続で税金が発生すると、確定申告による申告と納付を行いますが「どんなときに確定申告が必要なの?」とお悩みの方もいるのではないでしょうか?
そこで今回は、遺産相続で確定申告が必要になるケースと、確定申告のポイントについて解説します。
※記事内でご紹介している法律や期限は、2020年12月時点での情報です。今後の法改正により、確定申告の手続き方法や期限、特例の内容などが変更される可能性があります。
遺産相続で「相続税」の確定申告は必要?
遺産を相続したときは「相続税」や「所得税」がかかり、確定申告が必要となることがあります。
しかし、遺産相続のすべてのケースで税金がかかるわけではありません。
では、税金がかかるときや、確定申告が必要となるのはどんな時なのでしょうか?
ここからは、相続税と所得税に分けて、それぞれで確定申告が必要なケース、しなくても良いとされているケースについて解説していきます。
まずは、相続税について見ていきましょう。
財産の総額が基礎控除以下なら「相続税」の確定申告は不要
相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の人数」の基礎控除額が設けられているため、遺産の総額が一定の金額以下であれば非課税となり、確定申告をする必要はありません。
法定相続人とは配偶者と血族のことで、同じ順位の人が複数人いる場合は、全員が法定相続人となります。
例:亡くなった方に2,000万円の遺産があり、法定相続人2人いる場合
→基礎控除額は「3,000万円+600万円×2人=4,200万円」となり、遺産の総額を下回るため相続税はかからない
遺産相続で「相続税」の確定申告による手続きが必要となるケース
遺産の総額が基礎控除を上回る場合は、相続税がかかり、確定申告を行う必要があります。
なお、相続税の対象となるのは「故人の財産」です。
現金や預貯金のほか、不動産、株式、自動車、家具、骨とう品、宝石など、資産価値のあるものは基本的に課税の対象となり、総額が基礎控除額を超えると最高で55%の相続税(2020年12月時点)がかかります。
相続税の計算方法や税率については、国税庁のホームページに詳しく掲載されていますので、そちらを参考にしていただくとわかりやすいでしょう。
(参考:国税庁「相続税の計算」)
(参考:国税庁「相続税の税率」)
ただし、遺産の総額が基礎控除額を下回り、相続税がかからない場合でも、相続税の確定申告が必要となることがあります。以下に、相続税が非課税でも例外で確定申告を行うケースについてまとめました。
小規模宅地等の特例を適用する場合
細かい適用要件については省略しますが、故人が住宅や事業に使用していた土地や建物がある場合は「小規模宅地等の特例」を利用して宅地の評価額を下げ、相続税の負担を軽減できることがあります。
ただし、この特例を利用する場合は確定申告が必要です。
(参考:国税庁「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例」)
相続税の配偶者控除を適用する場合
相続税には「3,000万円+600×法定相続人」の基礎控除が設けられていますが、配偶者が遺産を相続する場合は「配偶者控除」が適用され、1億6,000万円までは相続税がかかりません。
この配偶者控除を利用する際も、確定申告で手続きが必要となります。
(参考:国税庁「配偶者の税額の軽減」)
遺産相続で「所得税」の確定申告が必要となるケースとは?
次に、相続財産にかかる「所得税」について解説していきます。
所得税とは、勤労や事業、家賃収入などで得た所得にかかる税金のことです。
遺産はここでいう「所得」とはみなされないため、相続した財産自体に所得税はかかりません。
さらに、相続税が課されている財産に所得税が課税されると、二重課税になるという考え方から、遺産は所得税の課税対象外となっています。
つまり、相続した財産を収入として確定申告書に記入する必要はありません。
ただし「相続財産から所得が発生する場合」は課税対象となり、確定申告を行う必要が出てきます。
具体的なパターンをいくつか見ていきましょう。
相続した不動産から家賃収入が発生したとき
相続した土地・建物を賃貸住宅や駐車場として貸し出していて家賃収入が発生するときは、所得税の確定申告が必要です。
たとえば、4月30日に被相続人が逝去した場合、その年の1月1日~4月30日までに発生した収入を亡くなった方の所得税として、5月1日~12月31日までの収入は相続人の収入として、所得税の確定申告を行う流れになります。
相続した財産を売却したとき
不動産や株式といった遺産を売却して現金にした場合は収入があったとみなされるため、確定申告が必要です。
複数の相続人がいて、現金化した遺産を分け合った場合は、それぞれの相続人に所得税がかかります。
相続した財産を寄付したとき
相続財産を国が定めた特定の団体・法人などに寄付した場合は、相続税から一定の金額を控除できる「寄付金控除」が利用できます。
ただし、寄付金控除を受けるには確定申告が必要です。
節税のメリットが大きいので、遺産を寄付したときは確定申告を行うことをおすすめします。
被相続人に課税所得があるなら「準確定申告」の手続きが必要
被相続人が亡くなった年の1月1日~死亡した日までに得た所得がある場合は、相続人が確定申告を行う必要があります。
この手続きを「準確定申告」といい、申告と納付の期限は、相続の開始を知った日の翌日から4ヶ月以内です。
準確定申告は、被相続人が3月15日以前に亡くなったかどうかで所得税の計算方法が異なります。
・被相続人が1月1日~3月15日までに死亡した場合……前年分と、亡くなった年の1月1日~死亡日までに発生した所得を計算する
・被相続人が3月16日~12月31日に死亡した場合……基本的に前年分の確定申告は終わっているので、亡くなった年の1月1日~死亡日までに発生した所得を計算する
なお、相続人が2人以上いる場合は、通常、共同で準確定申告の手続きを行います。
その際は、申告書に各相続人が署名をし「確定申告書付表」という資料の提出も必要です。
相続税や所得税の確定申告方法
相続税や所得税の確定申告は、税務署の窓口に出向いて手続きを行う方法と、国税庁のHPから電子申告により申告書を提出する方法、専門家に依頼する方法の3種類があります。
ここでは、それぞれの申告方法のメリットや特徴、注意点について簡単にまとめました。
税務署の窓口で手続きを行う
税務署の窓口では、申告書の書き方などを相談しながら確定申告を行えるというメリットがあります。
相談は無料ですが、予約が必要な場合もあるため、わからない点を相談しながら確定申告を行いたいという方は、一度お住まいの住所地が管轄する税務署に問い合わせてみると良いでしょう。
電子申告(e-Tax)でオンライン申告する
電子申告(e-Tax)は、窓口に出向いて順番を待つこともなく、スマートフォンやパソコンからオンラインで確定申告ができるシステムです。
ただし、平成31年1月以降は、マイナンバーカードを取得して申告データを作成するか、税務署で本人確認を行い、IDやパスワードを発行してから申告を行う方式に変更されました。
(参考:「e-Tax利用の簡便化の概要について」)
そのため、電子申請の前に、マイナンバーカードやID・パスワードの取得など、事前の準備が必要となることもあります。
専門家に確定申告の手続きを依頼する
ご自分で確定申告を行うことに不安がある方や、忙しくて時間がない方は、税理士に手続きを依頼するという方法もあります。
必要事項を伝えるだけで良いので、役所に行って書類を揃えたり、ひとつひとつの資料を記入したりといった手間もありません。
税理士に各種手続きを依頼した場合の費用は、税理士事務所や遺産の総額によっても異なり、10万円~数十万円程度かかることが多いようです。
遺産相続後の確定申告のポイント
相続税や所得税の確定申告をする際は、どのようなことに気をつければ良いのでしょうか?
ここでは、相続した遺産の確定申告をスムーズに進めるために、事前に確認しておきたいことを3つご紹介します。
納付・申告の期限を把握しておく
繰り返しになりますが、亡くなった方の所得に対してかかる所得税を申告・納付する「準確定申告」の期限は、相続の開始を知った日の翌日から4ヶ月です。
それ以外に、所得税や相続税にもそれぞれ期限があります。
〈相続税、所得税の申告期限〉
・相続税……被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内
・所得税……所得が生じた年の翌年の2月16日~3月15日まで
※いずれも、期限が土・日・祝日にあたる場合は、その翌日までに申告
遺産分割の話し合いや、必要書類の準備などで時間がかかることもあるため、確定申告の必要がある方は、はじめに申告・納付の期限を把握しておきましょう。
なお、2020年は、新型コロナウイルス感染症の影響により、確定申告期限や税金の納付期限が延長される特別がありました。
2021年以降の対応についても何らかの変更がある可能性もあるため、正式な期限については、国税庁のホームページをご確認いただくことをおすすめします。
(国税庁HP)
申告・納付期限を過ぎた場合は?
申告・納付の期限を過ぎると、無申告加算税や延滞税、場合によっては、重加算税の支払いを求められることがあります。
また、相続税の減額が期待できる「小規模宅地等の特例」や「配偶者控除」を適用するには、期限内の申告が必要です。
万が一期限に遅れると、納税額が高くなってしまったり、特例が適用できなくなったりする可能性が高くなります。
申告・納付期限を確認したうえでスケジュールを立てて、計画的に確定申告の準備を進めていきましょう。
不動産を相続したときは土地の価格を調べておく
相続財産に不動産がふくまれていたときは「路線価」を見て土地の価値を金額に換算しておくと、確定申告の手続きがスムーズに進められます。
「路線価」とは、簡単に言うと、土地につけられる価格の指標のことです。
路線価や計算方法については国税庁のホームページから確認できますので、そちらから価格を確認し、宅地の相続税評価額を計算してみましょう。
(国税庁:「路線価図・評価倍率表」)
(国税庁:「土地家屋の評価」)
遺産相続後の確定申告では「債務控除」を忘れないようにする
相続税を計算するときは、遺産の総額から借入金などの債務を差し引く「債務控除」を受けることができます。
債務控除の対象となるのは、故人名義の金融機関からの借入金や、亡くなった後に支払う故人の所得税や住民税、固定資産税などです。
その他、お通夜や告別式での飲食費用や、お手伝いをしてもらった人への心付けなど、葬儀にかかった費用も債務控除として差し引くことができます。
債務控除は、金額が多いほど節税効果が期待できます。
申告書の作成時に見落としてしまわないよう、領収書や、いつ・誰に・いくら支払ったかというメモを残し、債務控除の対象となる費用をリストアップしておきましょう。
相続した空き家を売却したときの確定申告について
故人が土地や建物を所有していたときは、相続放棄をしない限り、基本的には相続人がその不動産を相続することになるでしょう。
しかし、親の住んでいた家を引き継いだものの「自宅から遠い」「すでに持ち家を所有しているので住む予定がない」などの理由から、その不動産が空き家になってしまった、というケースが近年増えてきています。
空き家は、放置しておくと劣化が進んで、地震や台風などの災害によって倒壊しやすくなる、ゴミの不法投棄や放火が起こる可能性があるなど、さまざまな問題が起こりかねません。
また、空き家であっても毎年の固定資産税や維持費は発生します。
そのため、もう誰も住む予定がない場合は、空き家の売却という方法を選ぶこともあるでしょう。
先ほどもご紹介しましたが、相続財産を売却したときは、所得税が発生するため、確定申告を行う必要があります。
そこでこの章では、相続した空き家を売却したときに発生する税金と、条件に適合すれば、確定申告をすることで活用できる特例についてご紹介します。
【関連記事】相続した実家(空き家)をどうする?空き家問題の現状と対策
空き家を売却したときにかかる税金
相続した建物が空き家であるかそうでないかにかかわらず、不動産を売却して得た利益には「譲渡所得税」という税金がかかり、確定申告を行う必要があります。
また、確定申告後は譲渡所得に応じた住民税が徴収されるため、空き家を売却すると「譲渡所得税」と「住民税」という2つの税金がかかることを覚えておくと良いでしょう。
ちなみに、譲渡所得税を計算するときは「不動産の売却価格-(取得費用+譲渡費用)=譲渡所得」という計算式でまず譲渡所得を出し、そのあと「譲渡所得×所有年数に応じた税率」で税額を算出します。
相続した空き家を売却した場合、取得費用とは、亡くなった方がその不動産を取得したときにかかった建築費やリフォーム費用のことを指します。
譲渡費用とは、空き家を売却するにあたり、不動産会社などに支払った仲介手数料などのことです。
譲渡所得税と住民税は、不動産を所有していた期間に応じて税率が変わる仕組みになっています。
税率は、所有期間が5年以下で譲渡所得税と住民税の合計が39.63%、5年以上の場合は譲渡所得税と住民税の合計が20.315%です。
相続した空き家の所有年数は、亡くなった方がその不動産を所有していた期間を含めることができます。
例
取得費が3,000万円の空き家を6,000万円で売却し、譲渡費用は200万円かかった。空き家は親が30年前に購入した。
譲渡所得……6,000万円-(3,000万円+200万円)=2,800万円
譲渡所得税+住民税……2,800万円×20.315%=648.2万円
このケースでは、譲渡所得税と住民税の合計が「648.2万円」ということになります。
取得費加算の特例
相続した空き家を3年10ヶ月以内に売却すると「取得費加算の特例」が適用でき、税金の負担額を軽減することができます。
取得費加算の特例とは、相続税として納税した額を売却したときの取得費に加算して、課税される譲渡所得に加算できるというものです。
詳しくは、国税庁のHPに記載されていますので、そちらを参考にしていただくとよりわかりやすいでしょう。
(参考:「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」)
なお、この特例を適用するには、確定申告での手続きが必要です。
空き家の3,000万円特別控除
相続した空き家を売却したときは、一定の要件を満たすことで譲渡所得から3,000万円を控除できる特例があります。
この控除を受けるには、空き家になってから3年目の12月末までの売却することや、その建物が昭和56年5月31日以前に建築されているなど、複数の条件が定められています。
もし3,000万円の控除が利用できれば、課税額を大幅に少なくすることが可能です。
相続した空き家の売却を予定している方は、一度国税庁のホームページを見て、条件に合うかどうかを確認してみることをおすすめします。
(国税庁:「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」)
この空き家の3,000万円特別控除についても、適用を受ける際は、確定申告で所定の手続きが必要です。
空き家を売却する前には家財整理や清掃が必要なことが多い
相続した空き家を売却する際は、はじめに不動産会社に査定を依頼して、不動産がいくらぐらいの価格で売れるのかを見積もってもらう方も多いのではないでしょうか?
その際、空き家に家財が大量に残っていたり手入れが行き届いていなかったりすると、マイナス要素となって査定額に影響することもあります。
そのため、空き家の売却を考えている場合は、はじめに家財整理や屋内外の片付け、清掃を行い、家をきれいな状態にしておくことが大切です。
しかし、空き家に残った家財の量が多いと片付けに時間がかかりますし、自宅から遠いと仕事を休むなどして通う時間を確保する必要があります。
このように、相続した空き家の売却を考えているものの、家財の整理や掃除をご自身で行うのが難しいという場合は、空き家整理を代行してくれるプロに依頼や相談をするのもひとつの方法です。
当社ワンズライフでも、空き家の家財整理のご依頼やご相談を承っております。
まとめ
相続をした遺産の総額が一定額を超えたときは、相続税が発生し、確定申告を行う必要が出てきます。
また、場合によっては、所得税も発生するかもしれません。税金が発生するかどうかは人によって異なりますので、まずは、遺産の総額を計算して、確定申告の必要性の有無について確認してみましょう。
遺産相続で引き継いだ財産には、一定の要件を満たすことで適用できる、節税効果の高い特例が多数あります。
ただし、特例を適用するには、期限内に確定申告をして、申告書とは別の書類の提出を求められることも少なくありません。
葬儀後の手続きや遺産分割協議などやることが多くて大変な中ではありますが、早めの段階でスケジュールを立てておくと、落ち着いて準備を進めることができます。
もし、遺産相続で不動産を相続し、その家が空き家であったときは、そのまま保有するにしても売却をするにしても、家財の整理を行う必要が出てきます。
当社ワンズライフでは、相続問題に詳しい士業の先生方と業務提携していますので、空き家の家財整理だけでなく、管理方法や売却についてのご相談も可能です。
空き家整理についてお悩みの方は、ワンズライフにお気軽にお問い合わせください。
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