2021.08.10
迫る相続登記の義務化〜土地や建物の相続時に注意したいポイント
2021年4月21日、所有者がわからなくなった土地の問題を解消する関連法が可決・成立しました。この法改正により、これまでは任意だった土地や建物における相続登記が法律によって義務付けられ、2024年をめどに施行される予定です。
相続登記が義務化されることで、具体的にどのような変化が起こるのでしょうか。
この記事では、迫る相続登記の義務化について、法改正のポイントや土地・建物を相続する際の注意点をわかりやすく解説します。
2024年をめどに相続登記の義務化が施行される
土地や建物の所有者が亡くなり相続が発生した場合、不動産の名義を相続人へ変更する「相続登記」をするのが一般的です。
これまで相続登記は義務付けられておらず、相続登記をしなかったからといって罰せられることはありませんでした。
しかし、この度の法改正では相続登記が義務化され、決められた期限内に手続きをおこなわなければペナルティが課されることになります。
ここでは、相続登記とは具体的に何なのか、義務化された背景とともに解説します。
相続登記の概要
相続登記とは、被相続人(不動産の所有者)が亡くなった場合におこなう不動産の名義変更手続きです。
相続登記によって、土地や建物などの不動産の名義が被相続人から相続人へ移ることになります。
また、相続登記の対象となるのは不動産のみで、預貯金や債権、骨董品などは対象外です。
これまでは相続登記を強制する法律はなく、手続きをとらなかったとしても法的には問題ありませんでした。
しかし、相続登記を怠ると不動産の所有権が確定せず、相続人同士のトラブルに発展するおそれがあります。
義務ではないとはいえ、従来から早めの手続きをとることが推奨されていました。
相続登記の義務化とは
法改正によって不動産登記制度の見直しがおこなわれ、土地や建物などの所有者が亡くなった場合はそのまま放置せず、被相続人名義から相続人名義に変更手続きすることが義務化されました。
これまで任意とされていた相続登記の手続きに強制力が持たされることになり、期限内に手続きを終わらせなければ金銭的な行政罰である「過料」が課されます。
法改正は遡って適用されるため、これから不動産を相続する相続人はもちろんのこと、改正前に不動産を相続している場合も注意が必要です。
相続登記義務化の背景
相続登記が義務化された背景には、相続登記されないことで発生する所有者不明土地の存在があります。
所有者不明土地とは、不動産登記簿で誰が所有者なのかすぐに判明できない土地、所有者がわかっていても所在不明で連絡がとれない土地です。
亡くなった方の名義のままで土地や空き家が放置されてしまうことで、公共事業や復興事業が円滑に進行できないおそれがあり、以前より所有者不明土地の発生は問題視されてきました。
所有者不明土地の所有者を探すには、戸籍や住民票の収集、現地への訪問など多大な時間と費用がかかります。
高齢化が進み死亡者数が増えることで今後さらに深刻化するおそれがあることから、相続登記の申請を義務化する運びとなりました。
なお、負債が明らかに多い場合は相続放棄の選択肢もあります。
不動産の法定相続人になっていても、決められた期限内に手続きをおこなえば相続放棄することが可能です。
【関連記事】遺品整理は誰がやる?費用負担と相続放棄するときの注意点
不動産登記法の改正ポイント
所有者不明土地の発生予防の観点から、不動産登記法の改正によって相続登記の義務化、申請手続きの簡素化がおこなわれることになりました。
ここでは、法改正によって不動産登記制度がどのように見直されたのか、主な改正ポイントをご紹介します。
相続登記は3年以内の申請が義務付けられる
土地や建物などの不動産を取得した相続人は、その取得を知った日から3年以内に相続登記の手続きを完了させなければなりません。
申請が漏れてしまった場合、正当な理由が認められなければ10万円以下の過料が課されます。
この「正当な理由」については法制審議会にて議論されており、相続人が多く発生し戸籍等の資料の収集に時間がかかる場合、遺言の有効性について裁判をしている場合など、やむを得ない事情に限定される見通しです。
なお、相続登記義務化関係についての施行日は「交付後3年以内」とされ、2024年までに施行される予定です(交付日は2021年4月28日)。
相続人申告登記・所有不動産記録証明制度が新設
この度の法改正では、相続登記の申請義務化にともなう実効性の確保を目的とし、「相続人申告登記」や「所有不動産記録証明制度」といった新たな制度も導入されることになりました。
相続人申告登記とは、相続人が登記名義人の法定相続人であることを申し出る制度です。
他の相続人との遺産分割協議が難航しているなど、登記できない事情がある場合での活用が想定されています。
相続登記の手続きをより簡易におこなえるため、手続き上の負担を軽減できます。
一方、所有不動産記録証明制度とは、自らが名義人として記録されている不動産の一覧を証明書として発行・取得できる制度です。
相続登記が必要な不動産を把握できるため、登記漏れを防ぐことにつながります。
登記名義人の住所変更は2年以内に完了させる
登記名義人が転居し住所が変わった場合、住所の変更日から2年以内に変更登記を申請することが義務付けられました。
名義変更手続きと同様に、正当な理由なく申請が漏れた場合は5万円以下の過料を課される可能性があります。
なお、住所変更関係についての施行日は「交付後5年以内」とされ、2026年までに施行される見通しです(交付日は2021年4月28日)。
土地・建物の相続における注意点
法改正によりこれまで任意とされてきた相続登記が義務化され、これからの不動産相続においては大きな変化をともなうことになります。
ここでは、土地や建物の相続時に注意したいポイントをご紹介します。
相続は早めの準備が大切
相続登記の申請期限は相続対象の取得を知った日から3年以内、住所変更は変更日から2年以内と期日が決められています。
相続登記は自分で申請することも可能ですが、相続の内容や状況によっては手続きが非常に複雑化し、専門家の手を借りることになるかもしれません。
まだまだ先だと思わず、なるべく早いうちから手続きを始めることが大切です。
また、相続税の申告においても期日が決められており、相続の発生から支払いまで10ヶ月を期限としています。
遺産分割協議が長引けばなかなか相続税が算出できないことが考えられるため、相続の準備は早めに始めるに越したことはありません。
【関連記事】遺産相続で確定申告は必要?相続後の確定申告のポイントについて
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現在相続登記をしていない場合はどうなる?
この度の不動産登記法改正で特に注意したいのは、法改正の施行前に始まった相続についても相続登記の義務化が適用される点です。
施行は2024年をめどとしていますが、現時点ですでに相続が始まっていれば新しい法律の対象となります。
相続が開始しているにもかかわらず相続登記が未了の場合、相続開始と所有権の取得を知ってから3年、もしくは改正法の施行日から3年のどちらか遅い方が申請期日となり、期限内に申請を完了させなければ過料が課されます。
まとめ
不動産登記法の改正により、亡くなった方が所有していた不動産を相続する場合は相続登記が必須となりました。
相続登記義務化の背景には、これまでは相続登記の申請に強制力がなかったために名義人変更がおこなわれず、所有者の判明が困難な土地・空き家が増えてしまったことがあります。
名義変更や住所変更には申請期限が定められており、期日までに手続きが完了しなかった場合は過料が課されます。
今後不動産の相続が見込まれる場合や、すでに相続している不動産の相続登記が未了の場合は、早めの申請手続きを心がけましょう。
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