2023.05.29
2024年1月から変更になる贈与税と相続税の税制改正とは?
2022年12月に「2023年度税制改正大綱」が閣議決定し、贈与税や相続税についても大きな改正が行われることとなりました。
今回の改正は、贈与・相続にかかる税負担を一定にし、資産移転時期の選択により不平等が生じないようにすることが目的です。
この税制改正により、贈与税や相続税はどのように変わるのでしょうか。
この記事では、2024年1月から変更になる贈与税・相続税の税制改正について、2つのポイントからわかりやすく解説します。
なお、今回の改正は2024年1月1日以後に受けた贈与について適用されるため、それ以前の贈与に対して影響は及ばない点にご注意ください。
ポイント1. 生前贈与加算の対象期間が延長
1つ目のポイントは、生前贈与における加算期間の延長です。
生前贈与加算について説明する前に、まずは「暦年課税制度」について知っておく必要があります。
暦年課税制度とは、1年間に贈与された合計額に対して課税される制度のことです。
1人あたり年間110万円の基礎控除が適用されるため、1年間で受けた贈与が110万以下であれば、贈与税の申告をする必要はありません。
しかし注意点として、暦年課税による贈与であっても、相続開始前3年以内の贈与については相続税の計算に足し戻されます。
つまり、被相続人が亡くなる前の3年間に受けた贈与については贈与税が課されるいうことになり、これを「生前贈与加算」といいます。
今回の改正では、暦年課税における生前贈与加算の対象期間がこれまでの3年から7年に延長されることになりました。
ただし、延長4年間に受けた贈与については、その合計額から100万円を控除した残りの金額が対象となります。
相続税の節税という観点では、この後解説する「相続時精算課税制度」よりも暦年課税制度のほうが有利とされてきました。
しかし、生前贈与加算の対象期間が7年に延長することで、今後は駆け込みの生前贈与による相続税の節税は困難になると考えられます。
ポイント2. 新しくなった相続時精算課税制度
2つ目のポイントは、相続時精算課税制度の見直しです。
新しくなった相続時精算課税は、節税面において有利になりやすいといえます。
相続時精算課税制度とは、被相続人が亡くなったときに累積贈与額を相続財産に加算して相続税額を計算し、一括して相続税を納める制度のことです。
暦年課税との選択制として、2003年度に導入されました。
この制度において暦年課税に適用されるような基礎控除はありませんが、2,500万円までの贈与については贈与税がかからず、2,500万円を超えた部分に一律20%が課税されます。
今回の改正では、相続時精算課税に対しても110万円の基礎控除が新たに創設されることになりました。
これにより、相続時精算課税を選択した場合も、毎年110万円までの贈与については贈与税の申告が不要となります。
さらに、将来の相続財産に加算する必要もないため、相続税もかかりません。
ただし注意点として、相続時精算課税を一度選択すると、その選択をした年分以降すべてに相続時精算課税が適用されるため、暦年贈与に戻すことは二度とできなくなります。
この点は今回の改正でも変わらず引き継がれています。
なお、相続時精算課税の基礎控除は、現行の暦年課税制度における基礎控除とは別途措置となっています。
暦年課税の基礎控除が相続時精算課税においても使えるようになったのではなく、あくまで相続時精算課税の枠組みの中で新たに110万円の基礎控除が新設されたということです。
「相続空き家の3,000万円特別控除」の見直しも
年々増え続けている「空き家」についても、その発生を抑制するための特例措置が延長・拡充されます。
「相続空き家の3,000万円特別控除」とは、相続により取得した居住用家屋を売却した際に、一定の要件を満たす場合において譲渡所得から最大3,000万円まで控除されるというものです。
この特例の適用期限は2023年12月31日までとなっていましたが、今回の改正により4年間延長されることになり、2027年12月31日までは引き続き最大3,000万円の控除を受けることができます(2024年1月1日以後の譲渡において適用)。
また、今回の改正では空き家特例が適用される範囲も拡大しています。
現行制度では譲渡前に耐震改修または除却工事を行う必要がありましたが、改正後は買主が譲渡後(譲渡の日の属する年の翌年2月15日まで)に耐震改修または除却工事を行なった場合においても特例の対象となります。
一方で、改正後は相続人が3人以上いる場合において、1人あたりの控除額が2,000万円に減額される点にも注意が必要です。
現行制度では相続人が何人いても1人あたり3,000万円の特別控除が適用されますが、2024年1月1日以後の譲渡においては相続人の人数によって減額の可能性があるということです。
まとめ
2024年1月から変更になる贈与税・相続税の税制改正において、主に押さえておきたいポイントは以下のとおりです。
・暦年課税制度における生前贈与加算の対象期間が3年から7年に延長
・相続時精算課税制度において110万円の基礎控除が新たに創設
また、空き家の多くは相続を機に発生していることから、相続人に対し早期の譲渡を後押しするための措置として、譲渡所得から最大3,000万円を控除する空き家特例の延長・拡充も行われます。
今回の改正により、これまで考えていた贈与や相続の方針を見直す必要があるかもしれません。
どの制度が最適かは個々の状況によって異なるため、専門的な観点から助言を受けたい場合は、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
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