墓じまいの手順や手続きについて解説
お墓は、先祖と私たちを結ぶ大切な絆です。きれいに清掃し、花を添え、手を合わせる習慣が古くから受け継がれてきました。しかし、近年では少子化や核家族化、少子高齢化、人口の都市部集中といったライフスタイルの変化により、お墓を閉じて別の場所に遺骨を移す「墓じまい」をする人が増えてきています。
墓じまいとは、具体的に何をすることで、どのような手順で進めれば良いのでしょうか?また、費用がいくらぐらいかかるかも気になるところです。
そこで今回は、墓じまいの手順や必要な手続き、費用の目安など、墓じまいをする前に知っておきたい基礎知識をまとめました。
墓じまいとは
「墓じまい」とは、これまでのお墓を撤去・処分して更地にしてから、墓地を永代的に使用できる権利(永代使用権)を管理者に返還することです。
なお、墓じまいをした後に納めてある遺骨を取り出して新しいお墓に移動させたり、永代供養墓や散骨、手元供養といった方法で埋葬したりすることは「改葬」と呼びます。
墓じまいは2014年ごろから話題になり始め、最近では、行政手続きや墓石の撤去工事などを代行、サポートしてくれる業者も増えてきました。
なお、墓じまいは「お墓を処分・撤去すること」、改葬は「遺骨を別のお墓に移すこと」ということで、本来はそれぞれ違う意味を持った言葉です。
しかし、墓じまい後には遺骨のあ新しい移転先を決める必要性があることから「別の形で供養する」という意味も含まれています。
そのため、この記事では墓じまいを「お墓を撤去・処分してから新しい形で供養する」ということと考え、話を進めていきます。
墓じまいが増えている背景
近年墓じまいが増えている背景としては、少子高齢化や血縁関係の希薄化、核家族化、人口の都市部集中などの影響が挙げられます。
「子どもがいない、または一人っ子でお墓を管理する継承者がいない」「自宅から遠方にお墓があるため、お墓参りをすることが困難」といった理由から、墓じまいをする人が増えています。
継承者が途絶えたお墓の行く末
お墓を購入する際にはお寺や霊園へ管理費を支払うのが一般的です。
しかし、この管理費は「お墓を維持費する費用」ではなく、「墓地全体の維持管理をする費用」です。そのため、個々のお墓の手入れは家族や親族といった血縁者が行わなくてはなりません。
もし、縁故者が途絶えて管理費の回収ができなくなってしまった場合、お寺や霊園管理会社は、墓所に立て札を立てるなどして1年間申し出を待ちます。
それでも返答がない時は「無縁墓」となり、永代使用権の契約が解消され、複数の遺骨を埋葬した「合祀墓」に移されます。
墓じまいの流れ
墓石を撤去して更地に戻し、遺骨を新しい場所に埋蔵するというのが墓じまいの大まかな流れですが、実際に行うとなると、どのような手順で進めれば良いかわからないという方も多いのではないでしょうか?
ここでは、墓じまいの手順を詳しくご紹介します。
なお、墓じまいの手順については、宗教や宗派、お住まいの地域、お墓の状態など、さまざまな事情で必要な手続きや流れが変わってくる可能性があります。
そのため、こちらでご紹介する内容は、あくまでも「一般的な流れ」として、参考程度にご覧ください。
親族と話し合いをして同意を得る
墓じまいは今のお墓を撤去・処分して別の場所に移すことですから、個人の一存で決めると後で親族間でのトラブルが発生する可能性があります。
墓じまいを検討している際は、はじめに親族としっかり話し合い、全員の同意を得ることが大切です。
中には、墓じまいを快く思わない人もいるかもしれません。
もし「ご先祖様に申し訳ない」といった考えを持つ方がいる場合は、維持管理に手間や時間がかかるため負担が大きいことや、今のお墓は遠いのでお墓参りが難しいこと、後継者が絶えるなどの現実的な問題を丁寧に伝えます。
納得してもらえないからと強引に進めるのではなく、親族の意思も尊重して、丁寧な説明を心がけましょう。
納骨されている人を把握する
墓じまいを行う際は、現在お墓の中に誰が埋葬されているのかを証明する「埋蔵(埋葬)証明書」という書類を市区町村に提出しないといけません。
そのため、誰が永眠しているか、遺骨は何体あるか、大きさ、経過年数、破損状況、火葬済みかなどをしっかりと確認しておきましょう。
後で整理をしやすいように、骨壺に名前を記しておくのもおすすめです。
墓じまいした後の遺骨の行き先を決める
墓じまいをする際は、遺骨の移転先などを決める必要があります。
自宅近くのお寺や霊園への移動、永代供養墓への合葬、散骨などが一般的です。
供養する方の環境や、生前のライフスタイルなどを考慮した上で考えることをおすすめします。
現在の墓地管理者に墓じまいを告げる
遺骨の移転先を決めたら、現在の墓地管理者にその旨を伝え、署名や捺印をもらいます。
墓地は遺骨の保管場所ではなく、ご先祖様の魂を供養する神聖な場所です。それだけに墓じまいには、お墓を管理してくれているお寺に配慮して、失礼のない対応を心がけることも重要になってきます。
ここでお寺側の心証を悪くしてしまうと、高額な離檀料を請求されてしまうという事態にもなりかねません。
そのため、墓じまいのことを墓地管理者に伝える際は、先祖代々お世話になったという感謝の気持ちやお詫びの気持ちを伝えた上で、「遠方のため管理が困難」「管理する者がいない」など、維持・管理を続けることが難しい事情を丁寧に説明しましょう。
必要書類を用意する
遺骨を移動させるためには、現在の墓地がある市区町村の役所で配布している「改葬許可申請書」、新しい墓地の管理者が発行する「受入証明書」、現在の墓地管理者が発行する「埋蔵(埋葬)証明書」の3種類の書類が必要です。
これらを現在お墓がある市区町村の役所に提出して「改葬許可証」を発行してもらいます。
改葬許可証は、新しい墓地の管理者に提出しましょう。
遺骨を取り出す前に閉眼供養を行う
宗教や宗派によっても墓じまいの流れは変わってきますが、仏教信者の方の場合、お墓から遺骨を取り出す前に「閉眼供養」を行うのが一般的です。
閉眼供養とは、お墓から魂を抜いてもとの石に戻す儀式のことで「魂抜き」「お精根ぬき」「お精抜き」と呼ばれることもあります。
閉眼供養は、数珠、仏花、ロウソク、お線香を用意し、生花を添えてお祓いします。
供物は、赤飯または紅白のお餅、故人の好物だった食べ物が最適です。
墓石の解体工事を石材店に依頼する
「改装許可証」が発行されると現在の墓地から遺骨を取り出すことが可能となりますが、遺骨を取り出したり、墓石を処分したりする工事をご自身で行うのは難しいでしょう。
そのため、墓石の解体工事は石材店に依頼するのが一般的です。
石材店については、民営霊園や寺院墓地にお墓がある場合は依頼先を指定されることがあります。
反対に、公営霊園や地域の共同墓地にお墓があるケースでは、石材店の指定はなく、ご自身で自由に業者を選べる可能性が高いでしょう。
墓石の解体工事が済み、新しい墓地の遺骨を納骨したら墓じまいは完了となります。
墓じまいでよくあるトラブル&防止策
墓じまいで一番避けたいのはトラブルです。
ここでは、墓じまいでよくあるトラブルと防止策をご紹介します。
お寺とのトラブル
お寺へのお布施に関しては定価が決まっていないため、予想外に高い離檀料を請求されて、トラブルになることもあります。
特に、急に檀家をやめることを伝えたると、お寺側は急に収入が途絶えて困ってしまうため、やむを得ず高額な費用を請求しないといけない、という事態になりかねません。
こういったトラブルを回避するためにも、早めの段階でお寺に墓じまいについて連絡したり相談したりして、事前に了承を得ておくことが大切です。
親族間のトラブル
親族の意見が一致せずに墓じまいを行った場合などもトラブルになります。
全員の意見をまとめて書面を作成してサインを残すなど、証拠を残しておくとよいでしょう。
石材店とのトラブル
お墓の立地などによっては、通常よりも工事に手間がかかることから見積り額以上の費用を請求され、石材店とトラブルになってしまうことがあります。
こういったトラブルを防ぐためには、事前に複数社から見積りを取って、料金の相場を把握しておくことが大切です。
墓じまいにかかる費用の目安
お葬式やお墓、仏壇に関するポータルサイトの運営などを行っている「株式会社鎌倉新書」の調査によると、墓じまいにかかった費用が「50万円以内」と回答した方は全体の約4割でした。
また、約3割の方は「51万円以上」と回答しています。
10万円以下で済んだケースもあれば、数百万円かかった方もいるなど、墓じまいの費用にはかなり幅があるようです。
以下に、墓じまいにかかる主な費用の内訳をまとめました。
・離檀料
・閉眼供養の費用
・必要書類の発行手数料
・墓石の解体工事にかかる費用
・新しい墓石の購入費用など
たとえば、宗教・宗派によって離檀料や閉眼供養の費用は変わってきますし、お墓の規模によっては、墓石の解体工事がかさむ可能性もあります。
このように、墓じまいの費用は様々な条件によって変動するため、一概に「〇万円」と決まっているわけではありません。
次は、それぞれの内訳ごとの目安となる価格をご紹介します。
離檀料
そのお寺との付き合いをやめることを「離檀」といい、これまでお世話になったことのお礼の意味を込めて、お寺に渡すお布施を「離檀料」といいます。
離檀料は支払い義務があるわけではなく、お寺によっては受け取らないというところもあるなど、対応はさまざまです。
しかし「これまでお世話になったお寺に、まったくお礼をしないのは気が引ける」と言う方は、法要1回分程度を目安に離檀料を渡しても良いでしょう。
費用の目安は、3~15万円程度です。
閉眼供養の費用
閉眼供養の費用は、1~10万円程度が一般的です。
人によっては、この閉眼供養のお布施のほかに僧侶の交通費である「お車代」を包むこともあります。
お車代は、5,000円程度が相場です。
必要書類の発行手数料
遺骨を移動させるためには行政手続きが必要となりますが、その際に準備する書類の発行には、それぞれ数百円~1,500円程度の手数料がかかります。
・移転先の墓地が発行する「受入証明書」……400~1,500円程度が一般的
・移転前の墓地管理者が発行する「埋蔵(埋葬)証明書」……400~1,500円程度が一般的
・遺骨の移転や新しい墓地への納骨を許可する「改葬許可証」……無料~500円程度が一般的
※いずれの書類も、発行手数料は各市町村によって異なる
改葬許可証は遺骨1体につき1枚必要ですので、例えば3名の遺骨がお墓におさめられている場合は、申請書・許可証を3通準備します。
墓石の解体工事にかかる費用
墓石の撤去や埋め戻し工事にかかる費用は、石材店に支払います。
墓石の大きさや墓地の規模によって工事の価格は異なりますが、小さなお墓だと20万円代、大きなお墓なら100万円ほどかかることもあります。
新しい墓石の購入費用など
移転先に新しくお墓を購入した場合は、墓石の費用と永代使用料を同時に納めるのが一般的です。
相場は10~300万円程度で、購入するお墓の規模や墓石の種類、供養の方法などによって価格は大きく変わります。
また、このほかにも、魂をお墓に入れる「開眼供養」の儀式を行ったり、納骨式をしたりする場合は、別途費用が必要です。
一般墓地を購入する以外の供養方法とそれぞれの価格の目安については、次の章で詳しくご紹介します。
墓じまい後の遺骨の供養方法
墓じまいをする理由の多くは「お墓を管理する人がいなくなる」ということから、最近では、管理の手間や維持費がかからない供養方法を選ぶ方も増えています。
ここでは、一般墓以外の代表的な供養方法を5つ挙げ、それぞれのメリットとデメリット・目安となる費用を説明します。
永代供養墓
永代供養墓は、遺族に代わって霊園や寺院に遺骨の供養をしてもらうことです。
継承者がいない方、子どもや親族にお墓参りや管理・維持などの手間をかけたくないという方に人気があります。
ちなみに、永代供養墓には、供養を行わずに遺骨の収蔵と施設の管理のみを行う「合祀墓」や、遺骨を個人・夫婦・家族単位で納める「個別墓」など、いくつかのタイプがあります。
永代供養墓の費用は、3~50万円程度と人によって差があります。
メリット
霊園やお寺が遺骨を管理・供養してくれるため、雑草などでお墓が荒れる心配がありません。
また、家族や親族がお墓参りをしたり維持管理をしたりする手間がなく、負担を掛けずに済みます。
デメリット
モニュメントのような佇まいが多いことから、最初はお墓がなくなったことを強く感じるかも知れません。
納骨堂
納骨堂は、骨壺に入れた遺骨を安置しておく建物です。
「納骨殿」「霊堂」と呼ばれることもあります。納骨堂は、ロッカー式、棚式、仏壇式など、省スペースながら遺骨が個別管理されるのが特徴です。
ただし、一定年数の経過後は、合葬型のお墓に合祀されるのが一般的です。
費用は、1人用50万円程度、家族用は100万円程度が目安です。
その他、年間管理費が1万円前後かかることもあります。
メリット
屋内に納骨されるので、自然によるお墓の汚れや雑草などが気になる方も安心です。
デメリット
墓石はないものの個別のお墓には変わりなく、縁故者による維持管理が必要です。
樹木葬
樹木葬とは、墓石を建てず、ご遺骨を樹木や草花の下に埋葬するお墓です。
元々は岩手県の祥雲寺内にあった知勝院が始めたもので、自然回帰の考え方や後継者が不要なお墓の新しい形と多くの人の共感を集めました。現在では、全国各地の寺院や民営・公営の埋葬施設で樹木葬が行われています。
桜や紅葉、ハナミズキなどや、草花や芝生で彩られたガーデンに遺骨を埋める樹木葬も話題になり、年々人気が高くなっています。費用は、50~70万円台が目安です。
メリット
小さなスペースにご遺骨を埋葬するため、一般墓よりも費用を抑えやすくなっています。
また、自然に囲まれ、開放的な雰囲気の中で埋葬してもらえるのも樹木葬の大きなメリットです。
デメリット
基本的に遺骨を取り出すことはできないため、親族の同意を得にくい可能性があります。
里山保全の観点から、線香や供物などを捧げることはできません。
散骨
遺骨を砕き、海や山など、故人の思い入れがある場所に散布する方法です。
散布する際には、遺骨であることがわからないよう、2ミリ以下の粉末状にする必要があります。
粉砕料金は、骨壷サイズによって7千円~2万円程度が目安です。その他、散骨方法によって料金が異なります。
メリット
お墓がなくなるので、今後の維持管理の負担がありません。
デメリット
海や宇宙など、散骨する場所によって費用が異なります。
【関連記事】自然葬とは?散骨葬や樹木葬などの新しい葬送の形
手元供養
手元供養とは、自宅の仏壇などに遺骨を安置することです。
遺骨を小さな骨壺にして管理することもあれば、遺骨や遺灰をダイヤモンドや樹脂に加工して、アクセサリーとして身に着ける方もいます。
手元供養は、遺骨のすべてを手元で供養する方法と、遺骨の大部分をお墓に納め、一部のみを手元に残して供養する方法の2種類があります。
メリット
もっとも経済的で、亡き人を身近に感じる供養と言えます。
自宅や手元でご遺骨を管理できるため、遠方にお墓参りをする必要はありません。
デメリット
遺骨が常に家にあることに抵抗感を抱く方がいるかもしれません。
災害に遭うと、ご遺骨を紛失してしまう可能性があります。
墓じまいを代行してくれるサービスも
墓じまいは、親族や各関係者との調整、次の埋葬先や石材店の選定、市区町村の役所からの書類の取得や提出、閉眼供養などの宗教儀式、遺骨の取り出し、次の埋葬先への納骨など、多くの手続きが必要です。
そのため、これらの負担を軽減するため、墓じまいに関する各種手続きを代行してくれるサービスも登場しています。
墓じまいの代行業者を選ぶ際は「どこまで対応してくれるか」を事前に確認しておくことがポイントです。
ご自身で行政手続きを行うのなら解体工事に特化した業者、その逆であれば手続きを得意とするところなど、依頼したいサービスを提供している業者を選びましょう。
墓じまいに関わる一切を依頼するなら、オールインワンの業者を利用するのもがおすすめです。
インターネットで検索するとさまざまな業者がヒットしますので、口コミや実績なども見ながら比較検討してみましょう。
墓じまい代行サービスの費用の目安
ここでは、複数の墓じまい代行サービスの料金を参考にして、必要となる費用の目安をご紹介します。
・墓じまいをすべて代行してもらう場合……15万円程度~
・行政手続きのみを代行してもらう場合……6万円程度~
その他、オプションサービスとして僧侶の手配や閉眼供養の儀式も頼める業者もあります。
こちらも費用は業者によってさまざまですが、僧侶の手配は1万円台から、閉眼供養は10万円台前半からが目安です。
まとめ
現代の日本では、昔のように先祖代々のお墓を守り続けることが難しくなってきています。
草木に覆われ、荒れているお墓も目立つようになってきました。無縁墓になっても乱暴に扱われることはありませんが、維持・管理する人がいないとお寺や墓地の管理者に負担をかけてしまいます。
公営の霊園では無縁墓となった墓石の処理費用に税金が使われるため、管理できない人が増えると、将来的に墓地の維持管理が立ち行かなくなる可能性も懸念されています。
今後も、少子高齢化や核家族化は進むことが予測されています。
そうなると「遠方に住んでいてお墓参りができない」「継承者がいない」といった事情から、墓じまいという方法を選択される方は増えていくでしょう。
「無縁墓になるかもしれない」という不安がある方は、ご自身のためにも、後世のためにも、墓じまいという方法を選択肢に加えてみてはいかがでしょうか。
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