贈与税とは?生前贈与を上手に活用しよう
2015年1月1日から相続税の基礎控除額が引き下げられました。この改正の結果、相続税を課税された方の件数割合が、平成26年の4.4パーセントから平成27年には8%に急増しました。不動産や有価証券を保有している方に相続税がかかる可能性が目に見えて増加したことが証明されたと言えます。この結果を受け、今、生前贈与が注目されています。この記事では、贈与税と相続税の違いについての解説と、どうすれば課税額を減らしていけるのかをご紹介していきます。
贈与税の基礎知識
贈与税とは、個人から財産を貰ったときにかかってくる税金です。
会社など法人格を持ったものから財産を貰った時には贈与税はかかりません。(代わりに所得税がかかります。)
その他あまり知られていませんが、以下のものにも贈与税がかかります。
- 自分が保険料を負担していない生命保険金を受け取った場合。
- 債務の免除などにより利益を受けた場合。
贈与税の課税方法には、「暦年課税制度」と「相続時精算課税制度」の2つがあり、一定の要件に該当する場合には「相続時精算課税制度」を選択することができます。
相続税との違い
相続税とは、ある方が亡くなったとき、その方に法令で決まった相続財産があった場合にかかる税金です。
それに対して贈与税とは、生きている間に家族や他人に財産をあげたときにかかってくる税金です。多額の相続税が予想されるとき、節税のために自身が生きているうちに財産を贈与することを生前贈与といいます。
贈与税の非課税枠
贈与税の非課税枠には以下のようなものがあります。
- 暦年課税制度(110万円非課税枠)
- 贈与税の配偶者控除
- 相続時精算課税制度
- 住宅取得資金贈与
- 教育資金の贈与
- 子育て資金贈与
これらの制度をうまく使って節税をしていくとよいでしょう。
贈与税の計算方法
贈与税の課税制度には、「暦年課税制度」と「相続時精算課税制度」とがあります。
併用はできないため、どちらか一方しか選ぶことはできません。
2つの制度の違いをよく理解してどちらを使うかを判断しましょう。
暦年課税制度
相続税を減らす目的で財産を受贈者(贈与を受ける人)に贈与することを防ぐための制度といわれています。
受贈者が1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計額が基礎控除額110万円を超える場合に、その超えた部分に対してかかる税金です。
逆に言うと、年間の贈与額が110万円以下の場合には贈与税がかからず、税務署への申告も不要です。ただし、110万円は一人の方が年間に贈与された総額のことですので、一人の方が複数の方から110万円ずつ贈与された場合には贈与税が課税されます。
たとえば、お父さんから毎年110万円貰っても非課税ですが、お父さんお母さんから110万円ずつ貰った場合は課税されます。
暦年課税制度は、毎年110万円ずつ贈与していけば相続税対策として有効な手段といえます。ただし、贈与者が死亡した段階から3年以前の分に関しては相続財産として計算されるため注意が必要です。暦年課税制度を使う場合は、相続人がまだ元気なうちから行う必要があります。
暦年課税制度の税率
基礎控除後の課税価格 | 一般の贈与 | 特例贈与財産用(※) | ||
---|---|---|---|---|
税率 | 控除額 | 税率 | 控除額 | |
200万円以下 | 10% | – | 10% | – |
300万円以下 | 15% | 10万円 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 | ||
600万円以下 | 30% | 65万円 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 | 40% | 190万円 |
4,500万円以下 | 55% | 400万円 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
(※)直系尊属(祖父母や父母など)から、その年の1月1日において20歳以上の者(子・孫など)への贈与税の計算に使用
相続時精算課税制度
相続時精算課税制度とは、原則として60歳以上の父母又は祖父母から20歳以上の子又は孫に対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度です。
相続時精算課税制度を選択する場合には、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日の間に、一定の書類を添付した贈与税の申告書を提出する必要があります。この制度を選択すると、その選択に係る贈与者から贈与を受ける財産については、その選択をした年分以降全てこの制度が適用され、「暦年課税制度」へ変更することはできません。つまり、暦年課税制度の毎年110万円の非課税枠は使えません。
同じ贈与者、贈与される人の間では一生にわたり2,500万円までは贈与税はかかりませんが、それを超えた場合は一律20%の税率で贈与税がかかります。また、この制度の贈与者である父母又は祖父母が亡くなったときには、相続財産の価額にこの制度を適用した贈与財産の価額(ここが重要なのですが、贈与時の時価で計算をします。)を加算して相続税額を計算します。
相続時精算課税制度のメリット
- 2,500万円までは贈与税なしで贈与が可能です。贈与財産の種類、回数、年数に制限はありません。一度の多額の贈与が可能。早期に多額の財産を移転できる。
- 相続時に、贈与時の価値で再計算されるため、急な値上がりが見込める財産の相続税対策になります。
相続時精算課税制度のデメリット
- 贈与を受けられるものの要件がある
- 金額に関わらず贈与税の申告が必要である
- 贈与財産は相続発生時に小規模住宅などの特例が受けられなくなる
- 贈与財産を物納することはできない
- 暦年課税に戻すことはできない
- 価値が下がりそうな財産については注意が必要
とくに小規模住宅の特例を受けられる住宅には注意が必要です。
贈与税の特例
贈与税には様々な非課税枠があります。うまく利用して節税に役立てましょう。
配偶者への自宅の贈与
適用要件を満たした夫婦の間で、居住用不動産又は居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、基礎控除110万円の他に最高2000万円まで配偶者控除できるという特例です。この制度は一生に一度しか使えませんので注意が必要です。
制度を受けるため必要な要件
- 夫婦の婚姻期間が20年を超えていること
- 配偶者から贈与された財産が、自分が住むための居住用不動産であること又は居住用不動産を取得するための金銭であること
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した国内の居住用不動産又は贈与を受けたものが現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること
子などへの住宅購入資金
平成27年1月1日から平成33年12月31日までの間に、直系尊属(父母、祖父母などのこと)から20歳以上の方が家を建てるなどの援助を受けたとき、一定の条件のもとであれば、一定額の贈与税が非課税になる制度です。新築の援助に限らず、増改築などでも適用可能です。
非課税となる対象額は条件により異なります。たとえば、平成32年度の場合は省エネ住宅なら1,500万円、それ以外の住宅なら1,000万円まで非課税になります。
詳しくは、国税庁のホームページをご参照ください。
https://www.nta.go.jp/taxanswer/sozoku/4508.htm
孫などへの養育費
この制度は期限付きとなっており、平成31年3月31日までに金融機関に教育資金を信託したものに限られます。ただし、1,500万円を超える分には贈与税がかかります。その後は教育資金として使うたびに領収書を金融機関に提出します。この制度は暦年課税の基礎控除110万円と共に使用することができます。
一括贈与時に非課税の適用を受けるための申告手続き
「教育資金の非課税の特例」の適用を受けるためには、その適用を受けようとする受贈者が、教育資金非課税申告書をその教育資金非課税申告書に記載した取扱金融機関の営業所等を経由して、信託がされる日、預金若しくは貯金の預入をする日又は有価証券を購入する日までに、その受贈者の納税地の所轄税務署長に提出しなければなりません。
また、教育資金非課税申告書が取扱金融機関の営業所に受理された場合には、その受理された日にその受贈者の納税地の所轄税務署長に提出されたものとみなされます。
なお、預入等期限までに教育資金非課税申告書の提出がない場合には、「教育資金の非課税の特例」の適用を受けることはできません。
贈与税の計算をしてみましょう
以下のケースを例にとって、それぞれの制度の場合を考えてみましょう
平成32年7月、Aさんは生前贈与を考えていたところ、息子が家の新築を考えていることを聞きました。それなら住宅資金贈与を行おうということに決まりました。
暦年課税制度の場合
新築の家は省エネ等の住宅ではなかったため非課税限度額は1,000万円となります。(省エネ等住宅であった場合は1,500万円となります。)それに毎年行える暦年課税制度を併用して1,110万円を非課税で生前贈与することができました。
相続時精算課税制度の場合
では、暦年課税制度ではなく、相続時精算課税制度を使えばいくらまで非課税で生前贈与をすることができたのでしょうか。
相続時精算課税制度非課税枠(2,500万円)+住宅資金贈与非課税枠(1,000万円)=3,500万円
3,500万円までは非課税です。
ただし、相続時にたとえ相続税がかからない状況であっても税務署への申告が必要となります。ご自身で申告をせず、税理士さんに頼むのであればその報酬がかかります。状況に応じ最適な制度を選択しましょう。
生前贈与を上手に活用するために
贈与は贈る側と贈られる側との契約です。以下のことを守らないと贈与として認められないことがありますので注意してください。
- 贈与契約書を作成しましょう。契約書にはいつ、誰が、誰に、どこで、何を贈与するのかをきちんと明記してください。
- 受け取った相手が贈与の事実を知らなかった場合:たとえば息子名義の口座に110万円振り込んでいても、その口座の存在を息子が知らなければ贈与は成立しません。現金渡しではなく、通帳に振り込みましょう。そのことを息子に伝えた上で通帳は息子に保管してもらうべきです。
- 株式証券は名義変更をしておきましょう。
これまで述べたように生前贈与には非課税化するためのいくつかの制度があります。相続税を減税するためにもご自身の状況に合わせて上手に利用してください。
おすすめ記事