デジタル遺品とは?パソコンやスマホに残るデータの遺品整理・生前整理
近年「デジタル遺品」という言葉をよく聞きます。文字通り、持ち主の死後も「デジタル機器に残された情報」という意味です。デジタル機器の中だけでなく、オンライン上に情報が残っていることもあります。デジタル遺品には個人情報が満載されていますが、IDやパスワードを知らないと家族もアクセスできません。実は、使っている本人も把握できていないケースも多いのです。
今回の記事では、パソコンやスマホに残るデータの遺品整理・生前整理について深く解説しますので、今後のためにも知識をつけておきましょう。
デジタル遺品をめぐる状況の変化
パソコンや携帯電話が普及してすでに数十年経っており、登場した当初から故人が残したパソコンや携帯電話のデータを見られず困っている遺族は一定数いました。
けれども、以前よりもデジタル遺品をめぐる状況は複雑になっています。
今までのデジタル遺品問題
今まで遺族がパソコンや携帯電話で確認したかったのは、写真や知人の連絡先でした。
故人の在りし日の思い出の写真だったり、葬儀の連絡をする友人・知人の連絡先だったりを得たいというのが主な目的だったのです。
当時のパソコンや携帯電話はセキュリティ面が甘く、電源を入れられればパスワードなどを入力しなくてもデータにアクセスできるケースも多くありました。
昨今のデジタル遺品問題
現在はパソコンやスマホを使ったサービスが進化しており、デジタル遺品の扱いがより複雑になっています。
たとえば、本人でなければ開けられない指紋や顔認証システム。
クラウド上で写真を保存している方もいます。
また、スマホによるキャッシュレス決済の利用者も増えています。
MMD研究所が2021年7月に行った調査によると、調査対象の52.1%が普段の支払いにキャッシュレス決済を利用していると回答しました。(※)
ほかにも、音楽や動画などを毎月定額で利用できるサブスクリプションサービスなども近年普及しています。
利用者が亡くなった場合でも、スマホ決済に残っている金額が取り出せなかったり、解約できず使っていないサービスの利用料金を払い続けたりという金銭的な損失が起こり得るのです。
MMDLabo株式会社「最も利用しているQRコード決済サービス、トップは『PayPay』で46.1%、次いで『d払い』が16.9%」
デジタル遺品とは具体的に何なのか?
デジタル遺品は、パソコン・スマホのデータ、SNSのアカウント、オンライン口座など多岐にわたります。
具体的にどのような問題が起こりやすいのかを紹介します。
パソコン、スマホのデータ
パソコンやスマホなどの電子機器には、家族の写真・動画や趣味で集めたものなど、さまざまなデータが収められています。
もし遺品整理の際に、内緒にしていた趣味や異性との交際の形跡などが見つかったとしたら、家族を大きく落胆させることでしょう。
SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)
Twitter(ツイッター)やFacebook(フェイスブック)、ブログやインスタグラムなど、数々のSNSがあります。
複数のSNSを利用している方も少なくないのではないでしょうか。
Twitterのプライバシーフォームには、アカウント所有者が亡くなった場合のアカウント削除に関する案内が掲載されています。
Facebookとインスタグラムは、申請すれば追悼アカウントに変更可能です。
ブログでは自力で削除・変更する必要があります。
どちらにしても、利用者本人が亡くなったあと、家族に操作してもらわなければなりません。
電子口座など
デジタル絡みのトラブルでとくに多いのが、「故人所有のインターネット銀行・証券の口座がわからない」というもの。IDやパスワードがわからず資産の確認ができないという状況だけでなく、そもそもどこの銀行を利用していたのかを家族が知らないこともあります。
銀行・証券
亡くなった時点から預貯金は「相続財産(遺産)」となり凍結されます。
凍結は死亡届が提出されると開始されますが、行政機関から銀行に連絡が入ることはなく、家族から銀行や郵便局に連絡して初めて凍結されるのです。
家族が連絡をしなければ口座は凍結されません。
しかし、インターネットバンキングなどを利用していた場合、IDやパスワードがわからなければ銀行への問い合わせしか手段がないため、結果的には死亡したことを伝えなくてはなりません。
相続が決着すれば凍結は解除されますが、葬儀などですぐにお金が必要なときに故人の資産を使えなくなるのは困るポイントでしょう。
また、分配が終わった後にインターネットバンクが見つかった場合、争い事の原因にもなり得ます。
株式
現物保有の株式は、株式を家族に移管して相続できますが、信用取引の株式は建玉(未決済になっている契約総数)の移管はできません。
決済して残った現金のみが移管されます。
株券を通帳など有形の貴重品と一緒に保管して、家族に認識してもらうことが大切です。
FX
仕組みは信用取引と同じで、証拠金取引です。
FXでも名義人が死亡した場合、その口座のポジションはすべて決済され、残った現金が相続人の口座に移管されます。
ただし、FXや株取引は資産価値がマイナスの場合もありますので、負債額が大きい場合には遺産放棄することも検討しなければなりません。
デジタル遺品にまつわるトラブル事例
実際に起こったトラブルなどのエピソードをご紹介します。
母のパソコンに見覚えのないフォルダー
母が亡くなってしばらくしてから、デジタル遺品の整理をしようとパソコンを開いたときの話です。母はデジタル系には疎い人だったので、生前私が代わりちょっとした設定などをしていました。このため、携帯やパソコンのパスワードの解除も難しいことはありませんでした。画像などの確認後、メールにも目を通すと覚えのない個人フォルダーが作られていました。何気なく開くとなんと母と男性とのやり取りしていた文章が残っていたのです。内容から察すると昔の彼氏のようでした。母は地味で外見もパッとしなく、父以外とは付き合ったこともないと言っていたので本当に驚きました。ほかの家族にも伝えられないまま、そのメールは削除しました。(神奈川県在住・30代女性)
兄のネットバンクの口座がわからずに苦労
亡くなった兄は離婚をしていたので、遺品整理のほとんどを私と母で行いました。衣服や家財道具などは母が専門の業者に依頼して処分することができましたが、パソコンやスマホなどのデジタル遺品は対処が大変でした。 ネットバンクに預金があることは、生前聞いていましたが、どこにいくら預金があるのかがわかりません。スマホならアプリを落としているだろうと思って確認しても、結局わからないまま終わりました。 その後、兄の書類ケースからネットバンクのカードが見つかり、手続きができました。(埼玉県在住・40代男性)
友人が祖父から譲り受けたスマホ
友人の祖父が亡くなった際に残したスマホを、友人が譲り受けることになりました。その際にデータの初期化を行わずに使用していたらしいのですが、友人の祖父はスマホのSNSアプリを使いこなしており、さまざまな女性から毎日のようにメッセージが届いたそうです。友人は「祖父は遊び人だった」と最初はがっかりしましたが、亡くなった旨をメッセージで送ると実際にお線香をあげに来られた方もいたそうです。友人の祖父はとても社交的で人望のある方だったのでしょう。友人は疑ってしまった自分を申し訳なく思ったそうです。(神奈川県在住・20代男性)
夫のSNSをどうするか
亡くなった夫のSNSをどうしようかと悩みました。夫はいくつかのSNSを使用していましたが、ほとんどのパスワードが分からないため削除が難しく、各運営サポートに問い合わせました。その際、多くのサイトではアカウントの削除に、夫が亡くなったことを示す死亡診断書などの書類、妻である私の身分を証明する運転免許証などが必要でした。スマホで写真を撮って運営会社に送信するだけだったので、意外と簡単に処理できました。私の場合は夫がどんなSNSやサイトを利用しているか把握していたのですぐに対応が可能でしたが、もし身内に誰も対応できる人がいなければ、故人のアカウントもWeb上に残り続けるのかなと思いました。(神奈川県在住・20代女性)
知り得なかった事実
従兄弟が亡くなりました。親戚の中でITに精通しているのが自分しかおらず、何か死に関してのヒントがないかと詮索を頼まれました。メールのやりとりを見て、従兄弟が不倫していたことや、毎日のように相手の家庭から嫌がらせメールを受信していたことを知りました。きっと、精神的に参ったのでしょう。メールの内容を見なければ知り得ない事実だったので、周りのみんなが傷つきました。(北海道在住・女性)
デジタル遺品対策として終活でやっておきたいこと
万が一に備えて、今すぐにやっておきたいデジタル遺品対策を紹介します。
残された家族と自分自身のために行うべきことに分けて解説しますので、参考にしてください。
残された家族のためにやっておくこと
あなたがいなくなったとき残された家族が困らないように、やっておきたい対策を紹介します。
スマホなどの端末のロックを解除できるように設定しておく
残された家族がまず気にするのが、スマホの存在でしょう。
たとえば、亡くなったことを仕事関係者に伝えたいと思ったとき、スマホを確認すればすぐに連絡先がわかります。
普段指紋や顔認証システムでスマホのロックを解除している方は、スペアキーを作って、どこかわかりやすい場所にメモしておきましょう。
家族宛にメッセージを残す
家族宛にメッセージを残しておくことも大切です。
自分の葬儀についての希望や亡くなったことを連絡してほしい人など、家族に伝えたいことなどを書いておきます。
SNSの削除や追悼アカウントへの変更希望なども、こちらに記しておきましょう。
一般的なエンディングノートを使えば項目ごとに自身の希望を記入できます。
手帳やメモなどどういった形でも家族宛のメッセージは記録しておくと、さまざまな選択をするとき家族が困ることが少なくなるはずです。
利用しているサービスとID・パスワードの一覧を作成する
インターネットバンキングや株式の取引、SNSやサブスクリプションサービスなどに家族がログインできるように、オンラインで利用しているサービスとそれぞれのID・パスワードを一覧にしてまとめておくのがおすすめです。
エンディングノートにまとめるのもよいですが、実際にサービスを利用している端末のトップページに貼っておくとわかりやすいでしょう。
自分のためにやっておきたいこと
パソコンやスマホには、流出されたくない情報が多く含まれています。
自分の死後に見られたくないものは確実に隠したり消去したりしておきましょう。
隠したいものにはロックする
写真やメールのやり取り、内緒の趣味などはロックをかけて外付けHDD(ハードディスク)やSDカードなどに保存しておくのがおすすめです。
また、定期的に削除や整理して自分で情報を把握できる状態にしておきましょう。
「死亡時自動削除ソフト」を使用する
ハードディスクの中身を自動で削除してくれる「死亡時自動削除ソフト」という便利なソフトもあります。
ソフトの種類にもよりますが、一定期間更新がない場合に自動的にファイルを削除したり、デスクトップ上の遺言ファイルを開くとデータが削除されたりというものです。
削除する日を設定するタイプでは、基準日を毎日変更して翌日にしておきましょう。
ただし、自動削除ソフトはパソコンを起動しなければ実行されません。
家族がパソコンを開けず業者にハードディスク復元を依頼した場合には、完全に削除されないままの情報が出てきてしまうので注意が必要です。
パスワードを残し、パソコンを起動して遺言などを見てもらう流れを作り出しておきましょう。
まとめ
仕事にもプライベートにも使えて便利なパソコンやスマホ。
企業情報のようなオフィシャルなデータから、資産・嗜好、性癖や交友関係といったパーソナルなデータまで端末に保存されています。
資産など遺族にとって必要な情報は確実に取り出しできるように、そして目に触れてはいけないものは墓場まで持っていけるよう、日頃からデータを整理整頓しておくことをおすすめします。
また、ご両親や配偶者にデジタル遺品の終活について考えてもらいたくても、なかなか言い出せないという方も多いでしょう。
その場合は、まず自分が整理し、ご家族に伝えてみてはいかがでしょうか。
もしものときのために、家族が集まる機会に話し合うのもおすすめです。
安心して「デジタル終活」を行うためにも、ここでご紹介したポイントを参考にしてみてください。
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