2017.08.01
相続放棄とは?メリット・デメリットや注意点の解説
あなたが相続人の立場になったときに、気を付けなければならないことは、受け継ぐ遺産にはプラス財産(積極的財産)とマイナス財産(消極的財産)があるということです。相続財産のマイナス財産がプラス財産を上回っていた場合、あなたは借金を引き継ぐことになります。相続放棄制度は、被相続人(亡くなった方)が、事業に失敗して借金を多く抱えていたなどの理由で発生したマイナス財産の相続を防ぐのに利用可能です。ただし、この方法にはデメリットも多く存在します。この記事では、相続放棄のデメリットや、注意点を解説していきますので、ぜひ参考にしてください。
相続の承認・放棄とは
相続が発生した場合の選択肢
自分が相続人となった場合、下の図のような対処の選択肢があります。まず相続を承認するか、放棄するか、承認する場合は、単純承認と限定承認があります。
それぞれについて説明していきましょう。
単純承認
相続発生時に、被相続人の財産ほか、すべての権利・義務を、相続人が包括的に受け継ぐことを単純承認といいます。プラスの財産も、マイナスの財産も権利も義務もすべてを承継するということになります。
限定承認
プラス財産からマイナス財産を引き、残った財産を受け継ぐ方式です。手続きが煩雑な方法ですが、うまく利用すれば便利な点もあり、利用する方も多くいます。
たとえば、次に説明する「熟慮期間」の3か月以内に資産の確認ができなかった場合や、マイナス財産のほうが多いのだが、遺産の中にどうしても残しておきたいものがある( 例:家屋に住み続けたい、家宝の壺は手元に残しておきたいなど )場合などがあります。
熟慮期間
上記のように、相続の承認には、単純承認と限定承認があります。単純承認を選ぶと、その後、マイナス財産が多かったとわかったとしても、相続放棄ができなくなり、相続人の財産から借金の返済を行うことになります。
ただし、限定承認は、とても手続きが煩雑です。そのため、税理士や、行政書士や、弁護士に頼むという方法もありますが、当然費用が発生します。そのような理由により、相続発生後、すぐに、どのような相続方法をとるべきかを決めるのは困難です。そのため、相続発生を知った日から3か月以内は 「 熟慮期間 」といって、相続財産を調査し、考える時間となっています。
相続放棄
家庭裁判所で手続きをして、初めから相続人でなかったことにしてらう制度を相続放棄といいます。
どんなときに相続放棄を選択するか
明らかに負債が多い場合
資産確認で負債が多いことは確認済みである、手間をかけてでも残しておきたい物はない、といった場合は、比較的簡単に手続きができる相続放棄を選択すればよいでしょう。
法定相続人全員が同意した場合
限定承認を利用せず、相続放棄を利用する理由のひとつに、限定承認は法定相続人全員の意思統一が必要だということがあります。法定相続人がひとりでも限定承認に反対すれば、限定承認制度は使えません。
相続放棄をする場合に知っておくべきこと
相続放棄をすれば、放棄した本人だけは負債から逃げることができますが、それだけでは面倒なことになりかねません。 ここでは相続放棄にあたって知っておくべきことをご紹介します。
相続放棄のデメリット
相続放棄はすべての財産の相続を放棄することになりますので、たとえば、今現在、被相続人の名義の家に住んでいるのならそこに住み続けることは不可能です。遺品の中にとても大切な思い出の品があってもそれを貰うこともできません。
義務を放棄するのですから、権利も享受することはできないということです。
相続放棄後の注意点
前項で書いたとおり、相続放棄をした場合、もはや、故人の財産は自分のものではないので、あきらかなゴミ以外は処分してはいけません。また、形見分けも同様に自己の判断で行わないでください。たとえば、大家さんなどから遺品を整理するように言われた場合でも自分で判断をせずに、必ず手続きをした裁判所に確認をとりましょう。放棄者が勝手なことをすると、相続放棄が認められなくなる可能性があります。
他に注意しなければいけない点として、何とかして返済をしてもらえるようにいろいろ頭を使ってくる債権者への対応があります。債権者への罪の意識から、従う必要のない債権者の要請に従ってしまったり、怪しいと思ってもそのことを口に出しづらかったり、といったことになりがちです。
市役所の職員を名乗る者から「 故人が受け取るはずの補助金ですから相続人の貴方がサインして受け取ってください。」とか、債権者から「 1万でいいから返済して誠意を見せてよ。」などと言われても絶対に受け取ったり、払ったり、何かにサインをしたりしてはいけません。
相続を承認することになってしまいます。
新たな相続人への配慮
相続権第一順位者が相続放棄を行ったとしても、相続権そのものが消えるわけではありません。その場合、相続権第二順位者のところに相続権が移ります。つまり、マイナス財産が理由で相続放棄をする場合には、その方も一緒に放棄したほうがよいということになります。
父親が亡くなったときに母親と子どもたちが相続放棄をした場合、近い親戚に父親より上の世代の方が残っていなければ、父親の兄弟姉妹に相続権が移ります。相続放棄をした場合、放棄者の子ども世代には相続権が移動しない仕組みになっているのです。ただし、本来の相続人がすでに、亡くなっている場合には、その子どもに相続権が移るので、相続放棄をするのは本来の相続人の子ども世代ということになります。
マイナス財産を受け継ぎたくない方全員で相続放棄をしなければ、親族間でのトラブルに発展しかねません。自分の家系図を作って、それをもとに、相続放棄の場合、誰にまで相続権が移るのかをしっかり確認しましょう。
相続放棄は取り消せるのか
相続放棄は、民法919条により、取り消しも撤回もできません。
しかし、いくつかの例外がありますので、ご紹介いたします。
- 相続放棄の申述が受理される前
- 詐欺または脅迫により相続放棄を行った場合。しかし詐欺の場合、事情を知らない第三者が、詐欺を行ったものから土地などを購入していた場合、取り返すことは原則できません。
- 未成年者が法定代理人の同意を得ずに相続放棄をした場合。
- 成年被後見人が自ら相続放棄を行った場合。または、後見監督人が選任されている場合で、後見監督人の同意を得ずに、後見人が相続放棄を行った場合。
- 被保佐人が保佐人の同意を得ずに相続放棄をした場合。
まとめ
相続放棄には、相続を知った時点から3か月という期限があります。
もしお悩みなら家庭裁判所に申し込めば、延長することもできます。一旦承認、放棄をしてしまえば、取り消し、撤回はほぼ不可能です。熟考したうえで結論を出しましょう。
相続放棄を決めた場合は、相続権の移る親族にも連絡をすることも忘れてはいけません。
相続手続きは大変なお仕事ですので、ご自分だけではしっかり対処できない場合もあります。そのような場合には、会計士、行政書士、司法書士、弁護士などの専門家に頼むのもよいでしょう。
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