2017.12.21
事故物件を抱えたときに知っておきたい、定義や告知義務とは
あなたがオーナー所有しているマンションの一室で、万が一、孤独死や自殺、殺人などがおきたとします。原状回復をするには、何から始めればいいのでしょうか。苦労して片付けても、その後も悩みは続きます。この大切な部屋は、事故物件になってしまったのでしょうか。では、事故物件の定義とは何でしょうか。何年たつまで入居希望者に告知する必要があるのでしょうか。この記事では、そのようなオーナー様のために、役に立つ知識をご紹介いたします。
不動産管理と事故物件
近年、少子高齢化や家族形態の多様化により、単独世帯は年々増加傾向にあります。また、数人で構成される家族での入居であっても、長く入居しているうちに、子供が独立して、配偶者が亡くなり、単身世帯になることもあるでしょう。
様々な形で単身世帯になった後に、入居者が病気などで孤独死してしまう。その他、病気によっては、自殺念慮の症状が出る病もあり、そのような場合、自殺の可能性もわずかながら出てきます。
記憶に新しい所では、「 座間 」事件などの凶悪犯罪によって事故物件になることもあります。まさか!と、思われる状況で、あなたの不動産が事故物件になることもありうるのです。
日頃から、そのような事態が発生したときのための対策と知識を身に付けておいて、危機管理をすることが必要でしょう。
いわゆる事故物件の定義とは?
事故物件と呼ばれる物件の条件はあるのでしょうか。
実は、事故物件の定義が具体的に、法律で決まっているわけではありません。過去に起こった事故物件をめぐる判例などが基準になるようです。
事故物件の分類
事故物件に該当してしまう原因は、大きく分けると「物理的瑕疵」 と、「心理的瑕疵」の2つがあります。
「物理的瑕疵」とは、雨漏りや、シロアリ被害などが該当します。
「心理的瑕疵」とは、「建物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景等に原因する心理的欠陥」のことで、その物件で自殺・殺人事件などで亡くなった場合に当たります。
また、孤独死においても、遺体が長期間発見されないことによる異臭騒ぎなどで、事件が近隣に知れ渡ってしまうと事故物件になると言われます。
( 参照:http://www.kokusen.go.jp/hanrei/data/201102_1.html )
この記事では、扱いの難しい「心理的瑕疵」のある物件についてご説明いたします。
事故物件を抱えてしまったら
所有する賃貸物件の一室がこのような事故物件になってしまったら、どのような対応をすればいいのでしょうか?
部屋を元に戻す【原状回復】
部屋の中で亡くなり、一定期間発見されなかった場合、部屋の中は激しく汚染されます。臭いもひどく、畳や壁にまで染みつきます。このように菌や害虫に汚染されてしまった部屋は、一般のハウスクリーニングではとても対応できません。
「特殊清掃」と呼ばれる、事故物件に対応した清掃を専門的に行っている業者に依頼する必要があります。
特殊清掃の作業内容
ご遺体の発見が遅れた場合、部屋の中の臭いや、体液の染み込みは甚大なものになります。そのため、清掃業者はまず、連絡を受けた後即座に対応することから始まります。作業内容は現場の状態により異なりますが、大まかな手順としては、まず汚染物質の除去から始めます。この大変な作業が終了した後、専門機器による除菌・消臭となります。どうしても除去できない臭いや、シミ、体液などによって傷んだ箇所はリフォームで対応します。特殊清掃業者がリフォーム会社を手配してくれることもあります。
重要なのは迅速な対応と専門資格取得業者
特殊清掃を行わなければならない状況になったときは、臭いなどが広がる前にできる限り早い対応が必要になります。即日対応していただける業者なら安心です。
また、特殊清掃業者を選ぶときは資格の有無にも注目してください。「 事件現場特殊清掃士 」という専門資格がありますので、選定の目安にしましょう。
告知義務はある?
事故物件をリフォーム後、賃貸不動産に新しい入居者を迎える、又は売買するにあたって、告知義務はあるのでしょうか。雨漏り・白アリ・アスベストなどの物理的瑕疵物件に関しては、宅地建物取引業法により、告知義務があります。しかし、心理的瑕疵に関しては明確な法令はありません。告知義務は過去の判例を参考に考えていくこととなるでしょう。
ここで一つ、自殺があった物件に瑕疵担保責任が認められた判例(平成元年9月7日・横浜地裁)をご紹介いたします。
マンションの売買の6年前に、入居者の妻が、部屋で自殺をした事実のあった物件の判例です。
判決は、「 隠れた瑕疵に該当するから責任をとらなければならない。」という結果となりました。裁判所の判決文を簡単に説明すると、そのようなマンションにおいては、住み心地が悪いこと、また、買主がその事実を知っていれば購入しなかった、といった点において、隠れた瑕疵に該当するとのことでした。
その他にも、売買不動産において事件事故等の有無の買主の質問に対して、約7年前の殺人事件を告知しなかった売主に不法行為責任が認められた判決や、50年前の殺人事件の告知義務違反もあります。
東京地裁平成19年8月の判決で、裁判官は、自殺物件を次の入居者に貸す場合、貸主はそのことを「 告知 」する義務があると言っています。ただし同判決において、特段の事情のない限り、告知後に一度賃貸すれば、その次の借主にまでは告知義務はないという判例もあります。
まとめると、後の責任問題を回避するためには、告知は当然した方がよいということになるでしょう。
ただし、いつまでか、何人目の入居者までか、というのは、明確なガイドラインが定まっているわけではないため、個々のケースや過去の判例を見て判断したほうがいいでしょう。いずれにしても、もし、不動産会社や入居予定者に聞かれた場合は、答えなければなりません。
家賃の値引きをしなければならないか?
告知義務同様に規定はありませんが、相場では、半額とか、3分の2などと言われています。
実際は、その物件の状況によっても変わってきます。値下げなどしなくても借り手のつく地域であれば、少しの値下げで十分でしょう。前の居住者の自殺など気にせず、その分安くなれば儲けものといった考えの方もいます。しかし反対に、相当安くしても借り手がつかないケースがあることも事実です。
そのような場合、入居者の自殺などにより損害を被ったオーナーは、連帯保証人や、家族に損害賠償を請求できるのでしょうか。これについても法令で定められていません。争った判例では以下のようなものがあります。
- 平成19年8月・東京地裁
損害賠償額は、1年分の賃料全額分とその後2年間の賃料半額分。部屋のリニューアル費用は遺族が全額負担。
- 平成21年6月・東京地裁
売買代金の1%相当額の損害賠償
以上のように判決は、個別の事件の状況を考慮して出ています。
備えとしてできること
賃貸住宅管理補償保険では、事故後の原状回復費用と、空室、値下げによる家賃保証も受けることができます。
その他にも、入居者自らが入る孤独死の保険もあります。
連帯保証人や、遺族に損害を補償してもらおうにも、相手に拒否された場合、裁判をする手間がかかりますし、絶対に勝訴するとも限りません。もしもの時のために、大家さんが保険に入っておくことは、事後にかかる費用を軽減するためにも有効です。また、安心を買う意味でも備えとしては有効かと思います。
まとめ
普段からもしもの時頼める業を探しておきましょう、というと、「 まだ事件も起こっていないのに専門家を探すなんて早すぎないですか。」という方もいらっしゃると思いますが、現実に事故が起こってから慌てて探すのでは、じっくり業者を吟味できないでしょう。
避けられない「 人の死 」に対して、今後不動産経営をしていくうえで後悔をしないよう、普段から何かあったら依頼できる業者を見つけておくことをおすすめします。
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