自筆証書遺言とは?要件や作成の注意点、書き方の解説
相続をめぐる親族間の争いは、財産が少ない方が起きにくいのでしょうか。
裁判所が公開している司法統計から、平成27年度の「遺産分割事件」の価格別の件数の項目を見てみると、8,141件のうち財産総額5,000万円以下が6,176件(全体の約76%)、財産総額1,000万円以下が2,611件(全体の約32%)を占めています。
つまり、財産が少ないから相続問題が起きないという考えは間違いなのです。その中にあって、相続争いを未然に防ぐのに有効な手段が遺言書だといえます。
この記事ではそのうちの自筆証書遺言の書き方のポイントや注意点をわかりやすく解説します。
自筆証書遺言とは
遺言書には公正証書遺言と、自筆証書遺言があります。自筆証書遺言では、決まった要件で遺言者が手書きし、封印して保管する方式です。気楽に書けることと、内容を誰にも知られずに書けることがメリットです。
ただし、作成したこと自体を秘密にしておいた場合、遺言者が亡くなったときに遺言書が発見されない可能性があります。そのため、保管場所は信用できる誰かに教えておくか、もしくは遺言書そのものをその方に託しておくべきでしょう。
自筆証書遺言を書いたあと、裁判所に見せなくていい?
自筆証書遺言は裁判所や公証役場での検分や、提出をする必要はありません。しかし、遺言者の死後、以下のような民法の規定により、検認を受ける必要があるため、相続人(相続を受ける人)は、遺言書を開封する前に裁判所にもっていく必要があります。
検認とは、自筆証書遺言書が改ざんされないように家庭裁判所において相続人立会いの下内容を確認して、検認調書を作成する作業のことを言います。法的に正しい自筆遺言書かどうかは判断しません。
- 民法第1004条3項 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。
- 民法第1005条 前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万円以下の過料に処する。
これらの条文に違反しても、それだけで遺言書が無効になるわけではありません。しかし、検認を受けていない自筆証書遺言では、土地の登記をすることも、預金等の解約をすることも不可能です。
用紙、筆記用具、封筒は?
自筆証書遺言を記入する用紙はメモ帳、便箋、レポート用紙など、どんなものでも構いません。しかし、この用紙は、のちのち銀行や法務局、裁判所でも使用する物ですので、それなりのものを選ぶことをお勧めします。
筆記用具に関しては、特に規定は無く、ボールペンのほか、毛筆や万年筆、マジックペン等でも結構です。しかし、改ざんされる恐れがありますので、鉛筆や消せるボールペンはお勧めできません。
自筆証書遺言を入れる封筒も必要です。銀行の貸金庫にでも預けない限り、ご家庭で保管することになりますので、簡単に封の破れないもの、水などが簡単にしみこまないものをお勧めします。
用紙も筆記用具も相続人である配偶者や、子どもたちのことを考えて、常識的なものを選びましょう。
自筆証書遺言書の要件
遺言者の思いを書き残した自筆証書遺言が無効にならないように、要件をお知らせします。
- 全文を遺言者本人が自筆で書きます。ワープロで打っても、代理人が書いても効力は生まれません。
- 作成日付を入れます。西暦でも和暦でも構いませんが、和暦の場合には「平成〇〇年」と記入しましょう。
日付には「吉日」を使わず、「○○日」と日を特定してください。 - 必ず押印します。認印や三文判でも構いませんが、拇印は避けましょう。確実に証明できるように実印をお勧めします。
- 氏名を記入します。遺言者特定のためですので、できれば現住所や生年月日も記入しましょう。また、連名の自筆証書遺言は無効になります。たとえ夫婦でも、同様です。一人ずつ作成しましょう。
- 相続権を持つ人以外に遺贈する場合には、その方の特定のため、氏名以外にも現住所を記入します。できれば、氏名は住民票などの公的文書に記載されている漢字表記にしましょう。普段、渡辺と書いている方の本当の表記が、渡邊や、渡邉であるかもしれません。そうすると、相続問題が発生したときに、本人の特定ができないから無効と主張される可能性があります。
- 土地、建物の表記はできる限り正確に書きます。法務局で登記簿謄本をとってきて、その通りに書くのがお勧めです。もしかすると、自分の土地だと思っていた土地が他人の登記だったり、父から受け継いだ土地の相続登記が終わっていなかったりするかもしれません。農地転用後の地目変更の忘れなどの登記上のミスはよくあることです。農地転用をして、農地から宅地にしてもよいと農業委員会から許可をとっても、登記簿上の地目は田や、畑のままです。実際に整地して建物を建てられる状況にしないと法務局は登記簿謄本の地目表記を変更してもらえません。そのため、建物を建てようと農地転用をしても、その計画が中止になると、地目はそのままになるわけです。地目の変更手続き自体を知らない方もいます。
公正証書遺言との違いは?
公正証書遺言は本人の希望を聞き取った公証人が、確実に有効な遺言書を作成するものです。データとしても残りますので、万が一震災などで公証役場がつぶれても遺言書はデータとして残ります。しかし、公証役場に対しての手続き料がかかりますし、今日作ろうと思ってもすぐにできるわけではありません。
自筆証書遺言書は、今すぐに作りたいときや、作る必要があるとき、もしくは、まだ遺言書を作成するのは早いと思うのだが、念のため作っておこうと考えたときになどに便利です。
【自筆証書遺言書と公正証書遺言書との比較】
公正証書遺言 | 自筆証書遺言 | |
---|---|---|
作成費 | 公証役場に対しての手数料が必要 参照:公証役場連合会 |
安価にできる |
証人 | 2人必要 | 不要。証人から内容が漏れてしまう心配もない |
遺言書への筆記 | 自筆が不可能でも作成できる | 自筆ができなければ作成できない |
効力の安全性 | 遺言者の意向を聞き公証人が作成するので確実、安全 |
|
自筆証書遺言を作成してみましょう
では、実際に作るにあたっての注意点や、ポイントをご説明いたします。
書き方のポイント
- 表題に必ず「遺言書」「遺言状」など、遺言書とわかるよう明記します。
- 法定相続人には「相続させる」それ以外の方には「遺贈する」と書くのが無難です。
- 用紙が複数にわたる場合には契印を押印しましょう。
契印とは、複数の用紙が関連している用紙だと言う事を示すために、2枚の用紙にまたがって押す印のことです。 - 遺言者の感謝の言葉や、家訓、要望などを記入する場合は、別の紙に記入したほうが分かりやすくなります。
訂正方法
自筆証書遺言で使用する印鑑はすべて同じものを使用してください。訂正は間違いを起こす原因のひとつとなりますので、全文書き直しをお勧めしますが、やむをえないときは下記の方法で訂正しましょう。
【訂正】訂正する箇所を二重線で消して、その近くに訂正後の文字を記入します。
- 訂正した箇所に、訂正後の文字と被らないように押印します。
- 訂正箇所の欄外に、訂正した行を「○行目」、消した文字数を「〇字削除」、加えた文字数を「○字加入」と記入して、その下に遺言者本人が署名します。
【加筆】加筆したい場所に、<(ここに入れますという印) を記入します。
- 加筆したい文を記入し、近くに押印します。
- 加筆個所の欄外に、加筆を行った行を「○行目」、加筆した文字数を「○字加入」と記入して、その下に遺言者本人の署名をします。
【削除】削除する箇所を二重線で消します。
- 削除した場所に押印します。削除した文字が読みにくくならないように注意しましょう。
- 削除個所の欄外に、削除を行った行を「○行目」削除した文字数を「〇字削除」と記入して、その下に遺言者本人の署名をします。
実際の書き方例
自筆証書遺言書を書き終わったら封筒にいれましょう
封筒表面には「遺言書」と大きく書きます。裏面には「開封厳禁 遺言書が入っています、裁判所で検認を受けなければなりません」「遺言者 〇〇」と書き、その下に押印、封をした所にも開封したらわかるように割印をしましょう。
遺留分の注意
相続には遺留分というものがあります。相続人が3人いて、そのうちの1人に全ての財産を相続させる、といった遺言書があったとします。そのような場合、相続分のない2人は遺留分減殺請求をすることができます。そうすれば、遺言書の内容がどうであれ、法定相続分の2分の1は貰えることになります。そのことを頭において遺言書を作成しましょう。なお、遺留分を考慮しない遺言書を書くことは、遺言者の自由です。
まとめ
遺言書はより後の日付に作成されたものが最終的に有効になりますので、何度書き直しても大丈夫です。初めは「すべての財産を〇〇に」のような簡単なものから作成し、次は法務局でとった登記簿謄本の内容を入れて書くなど、だんだんと中身の濃いものにしていけばよいでしょう。 何度でも気楽に書き直せるのが自筆証書遺言の良いところです。最終的によりトラブルのおきにくい完成品に仕上げていきましょう。
※1:遺産分割事件とは、遺産分割調停や、遺産分割事件の申し立てについて、家庭裁判所で裁判や調停の行われる事案のことです。
※2:遺産分割事件における認容とは、裁判になった後、裁判所が、原告の訴えが正しいとの判断を下した場合、それを認容判決(認容)といいます。
※3:調停成立とは、裁判所にて調停が行われて、お互いが納得した場合のことです。話し合いがまとまらなければ不成立となります。
おすすめ記事