2020.11.16
生前整理とは誰が誰のために何をやるのか?パート1
ここ数年で「終活」という言葉がメディアやTVで紹介されて広く知られるようになり、それに伴って「生前整理」という言葉も使われるようになりました。
しかし、生前整理をめぐって親子喧嘩になり、関係が悪化してしまうケースは少なくありません。
親子がストレスなく生前整理を進めるためには、どうすればいいのでしょうか?
パート1では、親子関係を壊さずスムーズに生前整理を進めるために抑えておきたいポイントと、生前整理の大きな分野のひとつである「財産整理」についての基本的な考え方、具体的な進め方についてご紹介します。
終活の一環である「生前整理」とは?
終活とは「人生の終わりに向けた活動」を省略した言葉です。
死ぬ準備という意味ではなく「人生の終焉に向けての準備をしながら、これまでのライフスタイルを見つめ直し、今後の人生をより自分らしく生きるための活動」というポジティブな意味合いで語られます。
その終活の一環である「生前整理」は、生きているうちに財産関係を整理する活動を指します。
2013年には「一般社団法人生前整理普及協会」が設立され、生前整理相談士や生前相続アドバイザーといった専門家も誕生するなど、生前整理に対する関心は年々高まっています。
【関連記事】生前整理とは?必要性はある?進め方を徹底解説
生前整理は親子間でトラブルが起きやすい
親が自分の終活を考えたり、家族と話し合ったりするのは大変良いことです。
しかし「生前整理」という言葉が一人歩きしてしまい、親子間でトラブルが起こってしまうことは珍しくありません。
「終活を始めたい」と親子で意識が一致しているのに、なぜトラブルになってしまうのでしょうか?
子ども側と親側、それぞれの立場からその理由を考えてみましょう。
子ども側:親の都合や心情を無視して進めようとする
子どもからすると「親が元気なうちにやらねば」と焦ってしまいがちです。
すると「今すぐ生前整理をしてよ」「亡くなってからだと私たちが困るんだから」と、親の都合や心情を無視して、自分の都合で行動を起こそうとします。
すると、親と喧嘩になって関係が悪化してしまい、いつまでも整理が進みません。
親側:「生前整理」といっても何から手を付けて良いかわからない
親からしても「自分が元気なうちに生前整理をしておかないと」という気持ちはあり「今すぐにでもしないと」と思ってはいるのですが、そもそも生前整理という言葉の定義が広すぎて、何から手を付けていいかわからず困ってしまいます。
多くの方は、高齢になるにつれて気力や体力も衰えてきます。
新しいことにチャレンジするのは想像以上に大変で、生前整理という一大イベントは親にとって気が重すぎます。
結果、やり方も何から手を付けて良いかもわからず「いつかしよう」と思ったまま、進まないままになってしまうのです。
生前整理をしていない自分や家族への漠然とした不安が募っているところに、子どもから「どうして生前整理しないの」と責められると、親は腹を立ててしまったり、ますますやる気をなくしてしまったりします。
親子関係を壊さずに生前整理を始めるには?押さえておきたいポイント
では、親子関係を壊さず、スムーズに生前整理を進めるにはどうすればいいのでしょうか?
遺品整理を専門とする「株式会社ワンズライフ」の代表であり、自らも「一般社団法人終活カウンセラー協会」の最上位資格である「上級カウンセラー」として活動する上野貴子代表によると、生前整理に関する相談案件は年々増加していると言います。
また、生前整理を親も子もストレスなく進めるためには、押さえておきたいポイントがいくつかあるそうです。それぞれのポイントについて、詳しく見てみましょう。
ポイント①:生前整理の基本の考え方を理解する
まず大事なことは、生前整理の基本的な考え方を理解することです。
実は、生前整理には大きな分野がいくつかあり、それぞれ目的も異なります。以下に、生前整理の大きな2つの分野についてまとめました。
〈生前整理の大きな2つの分野とは〉
1つ目の分野……財産関係の整理
誰が行う?……本人
誰のために?……家族や親族のために
目的……相続トラブルの回避
2つ目の分野……生活空間の整理
誰が行う?……本人
誰のために?……本人のために
目的……今の暮らしをより良くするため
生前整理の目的は、自分が亡くなった後に家族や親族間の相続トラブルを回避することです。
そのため、本来の生前整理とは、財産関係を整理する活動を指します。
つまり、一言で「生前整理」と言っても、実際には“財産関係の整理”と、物の整理をする“生活空間の整理”の2つの分野に分かれており、目的によって行う作業内容は違ってくるのです。
親子関係を壊さずに生前整理を進めるためには、それぞれの分野で「誰が」「誰のために」「何のために行う」ものなのかを本人と家族が理解し、共通認識を持つことが大切だといえるでしょう。
ポイント②:生前整理の当事者は親であることを理解する
生前整理の当事者は親ですので「本人がやる」ということが何よりも重要になってきます。
そのため、家族や親族の役割は、本人に取り組む気力と体力が十分にあるかどうか、または、意欲がわくような精神状態をサポートすることです。
本人にやる気がないのに「必要だから」「高齢になったらやっておくべきだから」という理由を伝えるだけではうまくいきません。
親の説得は、焦らずに、時間をかけて行いましょう。
親が生前整理に対してネガティブなイメージを持っている場合は「整理をすれば財産の状況を把握できるよ」「財産整理の際に自分でも忘れていたような貴重品が出てくるかもしれないよ」など、ポジティブな言葉を心がけることがポイントです。
生前整理は「相続でトラブルにならないように」「家族が遺品整理で困らないように」という目的で行うものですが、それを何度も口に出すと「結局子ども側の都合で整理させてるんじゃないか」と親に不愉快な思いをさせてしまいます。
自分の主張は控え、親が言われて嫌な気持ちになるような言葉は避けるようにしましょう。
【関連記事】親の家を片付けるときに気を付けたい、OKワードとNGワード
ポイント③:生前整理のタイミングは本人に任せる
生前整理のひとつの大きな分野である「財産整理」は、お金、不動産、貴重品など、あらゆる財産を「死後にどうするか」を考えて整理していく作業です。
人生のどのタイミングで財産を整理するのかは、その人の生き方にも通じる価値観が大きく影響してきます。
ですので、本人にやる気がないのに無理に生前整理を急かされてもうまく進まないでしょう。
本人が「まだ必要ないのに」と思っている状態では、途中で挫折してしまい、さらにやる気をなくしてしまいます。
始めるタイミングは人それぞれであるということを理解し、本人のペースを尊重して行うことが、親子ともにストレスなく生前整理を進めるコツです。
財産整理の具体的な進め方
ここでは、生前整理の本来の目的である「財産整理」に焦点を当て、具体的な進め方をご紹介していきます。
1.財産目録の作成
財産目録とは、所有財産の情報を一覧にしてまとめたリストのことをいいます。
目録に記載する財産は、お金だけでなく、換金できるものすべてです。以下に、記載項目の一例をご紹介します。
【「財産」に含まれるもの(一例)】
また、財産目録には、プラスの資産だけでなく、マイナスの資産も記載しておきましょう。
理由は、もし家族が亡くなった後に財産を確認して、マイナスの資産の方が多ければ、ひとつの選択肢として遺産放棄をすることもできるからです。
財産目録の書き方
財産目録で記載しておく内容は以下の通りです。家族が一目見て財産の内容がわかるように、できる限り詳しく記載しておきましょう。
【財産目録に書いておきたい情報】
財産目録を作成するメリット
財産目録を作成するメリットは、遺産分割をするにあたって“どこにどんな財産があるのか”を一覧にして相続人に示せるということです。
本人に万が一のことがあっても、ひとつひとつの財産を遺族が探す手間がなく、スムーズに相続手続きが行えます。
また、先に財産目録を作成しておけば、あとで物の整理を行うときに、必要なものを処分してしまうトラブルも防げるでしょう。
ほかにも、自身の財産の全体像が把握できるため、相続手続きの際に税金がいくらぐらいかかるか調べるときや、遺言書を作成するときに「家族の誰にどんな財産を残したいか」「配分はどうするか」について考える際にも役立ちます。
あらかじめ財産の全体像を把握しておくことで、生前贈与をして相続税を抑えるといった節税対策を講じることができるのも、財産目録を作詞しておく大きなメリットです。
2.遺言書の作成
遺言書とは、法律に基づいた形式で作成し「誰にどの財産をどんな配分で相続するか」を書き記した正式な書類です。
遺言書がなくても民法の規定によって財産分割は可能ですが、配分割合や相続人の指定など、細かい内容は決められません。
相続財産についての自分の希望や思いは、エンディングノートを利用し、書き記しておくこともできます。
しかし、エンディングノートに法的な拘束力はありません。
財産の行く先についてご自身の意思を示しておきたい場合は、弁護士や司法書士などの専門家、もしくは公証役場のサポートを受け、正式な遺言書を作成しておくことをおすすめします。
3.デジタル資産の整理
財産の整理を行う際に忘れてはいけないのが、デジタル情報の整理です。パソコンやスマートフォンには、SNSアカウントやメール、写真といったパーソナルな情報以外にも、ネット銀行の口座や仮想通貨、SNSアカウント、クレジット情報など、相続財産の対象となる「デジタル資産」が含まれていることがあります。
以下に、デジタル資産にはどんなものがあるか一例をまとめました。
【デジタル資産の一例】
・ネット銀行の預貯金
・ネット証券の保有株式
・仮想通貨
・電子マネー残高
・スマホ決済の残高
ほとんどの場合、デジタル資産はセキュリティのためにパスワードやIDが設定されています。
そのため、本人が亡くなってしまうと、遺族は情報を確認することができません。
自分が元気なうちにこれらのデータを整理しておけば、いざというときに家族の負担が軽減できます。
目には見えませんが、財産の一種として忘れず整理しておくようにしましょう。
【関連記事】デジタル遺品とは?パソコンやスマホに残るデータの遺品整理・生前整理
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デジタル資産の整理方法
どんなデジタル資産があるか家族が把握できるよう、パスワードやIDは別の場所に書き記しておきます。
パスワード管理用ノートを用意するほか、エンディングノートを利用するのも良いでしょう。
また、デジタル資産も相続財産に含まれるため、残高を調べ、財産目録に書き足しておきます。
パスワードをすべて書くと第三者に見られる可能性もあるため、家族にしかわからないようなヒントを書いておくと安心です。
パスワードやIDを記したノートは金庫などの人目につかない場所に保管しておきます。
せっかくノートを作っても、亡くなった後に家族がそのありかをわからなければ意味がありません。
一通り書き終えたら、ノートの保管場所を家族に伝えておきましょう。
まとめ
生前整理の本来の意味は「財産整理をすること」であり、本人が家族や親族間の相続トラブルを避けることを目的に行います。
親子がストレスなく生前整理を進めるためには、本人と家族が「そもそも生前整理とは、誰が誰のために何を行うものなのか」を理解しておきましょう。
財産の整理は本人が行うものあり、家族や親族はあくまでサポート役です。
人生のどのタイミングで生前整理を始めるかは人それぞれのため、周囲が無理に急かしてもうまくいきません。
子どもからすると「いつまでやらないつもりなんだろう」と思うかもしれませんが、親自身も「家族のために」「子どものために」と案外いろいろと考えているものです。
子ども側の都合を押し付けず「親の意思や考えを尊重する」ことを忘れないようにしましょう。
パート2では、生前整理のもうひとつの大きな分野である「生活空間の整理」について詳しく解説します。
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